スラム街のリストランテ

たいへ〜ん!わたしたちがハッピーセットになっちゃった!!

空中闊歩挨拶事変

出勤中にいつもすれ違うおじさんがいる。

話したこともないが毎日見かけるため顔を覚えている。

とりとめのないハゲおじさんだ。

 

いつも出勤中は耳に何かしらさして音楽を聞いたりしているので気がつかなかったが、

後ろから「おはよう!」と曲の合間に聞こえた。

僕の後ろを歩いていた女性に挨拶をしたのが聞こえたのだろう。

 

 


しまった。

 

 


あのおじさんはいつも挨拶をしてくれていたのだ。

あいさつは大事、されたら返しましょう。

小学校で習うことだ。

僕としたことがおじさんに無礼を働いていた。

知り合いでもないがあいさつを無視する理由にはならない。

深く反省した。

 



あいさつをされたであろう女性を見ると、

どうしたことか仏頂面で無視しているではないか。

 

おいおい、ピースフルじゃないな。

おじさんは他でもないお前におはようと言ったんだぜ?

寂しい街だ。

治安が悪いのか?

 

そんな治安の疑わしい街で道行く人にあいさつをするおじさん。

ヒーローとまでは言わないが、きっとこの街を好きな良いおじさんだ。

 

明日はきちんとあいさつを返そう。

申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 

 


次の日

 

 

いつも通り通勤していると前方からいつものおじさんが。

 

今日は僕から挨拶しよう。

こっちからあいさつをするぞ!なんて爽やかな想いで歩く朝が、大人になってからあるだろうか。

今日はきっと良い日になるに違いない。

 

僕はおじさんを見据え口を開いた。

 

「おはようございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

無視された。

 

何?

 

一瞬何が起こったかわからなかったしきっと今日は悪い日になる。

 

 

次の日

 

 

僕の前を女性が歩いていた。

 

前方からおじさんがこちらに歩いている。

昨日はきっと聞こえなかったか事情があったのだろう。おじさんは今日も元気に街を明るくしているはずだ。

 

「おはよう!」

ほら、前の女性にはしてるしな。

さあ僕の番だ。

 

「おはようございます!」

 

 

 

 

 

 

 

無視された。

 

なに?

 

実は僕はもう死んでておじさんには見えてない?

いやそんなことはない。

ほっぺをつねると痛い。

生きてる。

 

 

その後数日間おじさんを観察するとどうやらおじさんは若い女性にしかあいさつをしていないようだった。

 

 

ふざけるな。

 

ただの女の子大好きおじさんだった。

この街の治安が悪いのではない。

おじさんの治安が悪いのだ。

いやこんな奴をおじさんと呼びたくない。オッサンで十分だ。

 

きっと名物オッサンだから最初の女性も無視してたのだろう。

あいさつっていいなって思った優しい気持ちを返して。

 

 

 

ちなみに今日そのオッサンは川にゴミを投げ捨てていた。

 

なんだこいつ。